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世界トップクラスの精密加工ノウハウを有する国内メーカーは、双腕のYuMi®とともに人手不足への準備を始めています

人が両手を使い高い精度と集中力を保ち行っている作業は、幅広い製造業において数多く存在していますが、一般的にロボットによる自動化が難しい傾向にあります。一方、熟練作業者の不足は今後も進展していきます。

世界トップクラスの精密加工ノウハウを有する国内メーカーは、双腕のYuMi®とともに人手不足への準備を始めています

こうした課題に、世界有数の精密加工ノウハウを有するものづくり企業は、どのように対応を始めているのでしょうか?

株式会社 光南(本社:愛知県西尾市、以下光南)は、半導体製造装置部品、医療・光学機器部品、産業機器などの各種精密加工、および関連する周辺製品ASSYの設計や組付けの分野において、高度なノウハウを有するものづくり企業です。「中小製造業の既成概念を変える」というスローガンの下、マーケティング、製品開発、素材調達、製造、販売までの一連の事業プロセスを有する総合メーカーとして常に変化する市場のニーズを先取りし、より高い付加価値を有する製品やサービスの提供を通じてお客さま満足の最大化に取り組み、その結果、特定機械部品に関して世界市場の約6割というトップシェアを有しています。現在約150名の社員を擁し、国内市場を基盤に海外市場へと展開を図っています。

光南では現在、社内方針として製造における省人化を重点検討課題と定めています。製造現場においては人手による単純作業が多くを占めており、特に精密加工、精密組付けなどにおいては、高い水準の集中力や熟練が作業者に求められます。現状、熟練作業者による生産性や品質は十分に満足できる水準にあるものの、作業によっては作業者の育成に時間を要する場合もあります。これは同時に、作業者の熟練度によって生産性にバラつきが出ることも意味しています。そこで同社では、将来的な人手不足の進展も鑑み、総合的に自動化の効果の高い作業を特定し、ロボットなどを活用した自動化検討に注力することを決断しました。

『自動化のインパクトが最も大きい工程として、エレクトロニクス関連の製造装置に使用する小型金属部品の組付けおよび精密レーザ溶接の作業に着目しました。10mm~20mm程度の大きさの金属部品同士を組付けて溶接しますが、この作業には0.1mm水準の精度と集中力が求められます。そのため、こちらの作業では通常、作業者の育成に1~2ヶ月の期間を要しています』 生産技術Gr 開発チーム 岩迫 幸一 氏

当初この作業の自動化においては、単腕型のロボットで検討が進められていました。しかし、人手作業と同等の生産目標である月産10,000〜15,000個の生産量に対応すべく作業効率を考えた場合、ポイントとなったのが2つの部品をいかにうまく組み合わせられるか、ということでした。そこで、双腕のYuMiに着目することとなりました。

『率直に、YuMiの第一印象が良かったです。当初は単腕と大きな差はないと考えていましたが、実機の動作を見て、想定している作業を人の両手作業に極めて近似した形で効率良く自動化できそうだ、というイメージをはっきりと持てました。また、すぐに実機でトライをしていただいたことも、導入へのより早い意思決定へと確実につながりました』と、岩迫氏。



販売代理店より相談を受けたABBの協働ロボットチームでは、早速実ワークによる組み立てデモなどを実施し、実現性を検証しました。特にポイントとなったのが、小型金属部品同士の4点付けの仮溶接の工程です。『1点を溶接すると、パーツ同士の間隔が歪むため、人手作業では手でパーツ同士を押し付けながら仮溶接を行います。この適度な“押し付け”を500g可搬のYuMiの出力でできるかがひとつの懸念でした』と、岩迫氏は述べています。この懸念を検証するために、ABBチームはYuMiの実機を光南の製造現場に持ち込み、仮溶接における押し付け動作の実機検証を行い、十分に対応できることを確認しました。こうした検証を経て、光南はYuMiの導入を決断できました。

『この工程においては、YuMiの荷重制御の自由度の高さが非常に有効だったのではないでしょうか。YuMiより力があるロボットは市場にたくさんありますが、パーツを押し付ける位置やその荷重の制御をプログラム上で細かく調整し、保持できる協働ロボットは市場にほとんどないと考えています。また、部品同士の組付け精度は0.1mm以下という水準ですが問題なくYuMiはクリアし、人手では必要だったガイド治具も不要となりました』と、岩迫氏。

本件のシステム設計はシステムインテグレータが担いましたが、その過程において、構想されたレイアウトの3DデータをRobotStudioにインポートし、ロボット動作を作り込むと同時に、周辺機器との干渉やリーチの不足などのエラーチェックをシミュレーションにて実施しました。例え正確な図面や3次元のCG画像があったとしても静止画では気付けず、連続的な動作シミュレーションによって初めて気付ける衝突や干渉もあります。このような意味で、現場での不測の事態を最小限に抑えるためにも、RobotStudioでのシミュレーションはとても有効です。また、こうしてシミュレーションしながら作り込んだプログラムは、そのまま実機で使用でき、現場での立ち上げ期間の短縮にも大きく貢献します。

しかし、実際に現場で立ち上げを進めるにあたって、それでもいくつかの問題は起こりました。例えば、溶接スパッタの飛散、および溶接ヒュームの付着を防ぐプレート治具を使用していますが、その取り出しと溶接機との連動に苦労がありました。これはYuMiの7軸を活かした作業角度の調整や、これまでのピッキング自動化のノウハウを活かした吸着パッドの選定などによって現場にて解決しました。

また、人手作業では全く気にすることのなかった部品供給トレイの微妙な歪みに起因し、グリッパ内蔵ビジョンを使用した部品のピッキングが安定しないという課題も発生しました。『トレイは黒色の樹脂製で概ね1mm程度の反り加減といった微妙な形状差がありました。それによって、トレイの角の方では微妙にワークの傾きが変わり撮像結果が不安定となる事象が発生しました。これは肉眼では認識できないレベルです。この仕上げ調整には、リモートサポートも有効でした。現場のYuMiとPCを接続していただき、Microsoft Teamsを活用することで、リアルタイムで撮像結果を確認しながら、RobotStudioなどを介しプログラム補正を実施して、歩留まりを最大化していきました』と、ABB株式会社 ロボティクス&ディスクリート・オートメーション事業本部 カスタマーサービス事業部の鈴木 舟は述べています。

YuMiを活用した精密溶接システムは安定的に稼働し、日産最大1,000個の目標を達成しています。プロジェクト全体を振り返り、岩迫氏は次のように述べています。『率先したトライアルなどのサポートの良さがとても印象に残っています。特にリモートサポートでは、自身でRobotStudio、およびティーチングペンダントの操作を行うことで、プログラムの改善と同時に操作方法やノウハウを学ぶことができるため、優れたサポートシステムと感じました。今回の自動化の成功については、当社の他部署からの関心や評価も得られています。引き続き、当社の重点課題である省人化を念頭に、他の工程の自動化も検討を進めています』

ABBジャパンの協働ロボットチームはこうした声に応え、引き続きお客さまやパートナーとともに、自動化課題の解決に尽力します。

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