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ARC INFORMATIQUE

LHCの換気・冷却管理に向けた、ARCのPcVue監視ソフトウェアパッケージをCERNが採用

2008年末にCERNで稼働を始めたLHCは、周囲が27kmと世界一巨大な素粒子加速器です。その換気システムとこれに係る200台ものプログラマブルコントローラをモニター管理するため、ARCインフォマティックが開発したPcVue監視ソフトウェアをCERNが採用、アシステムフランス社がそこに設置しました。PcVueはインストールコストと稼働コストを低く抑え、こういった規模の応用に適しています。

LHCの換気・冷却管理に向けた、ARCのPcVue監視ソフトウェアパッケージをCERNが採用
LHC(ハドロン巨大加速器)は最高性能を誇る加速器です。フランスとスイスの国境の町ジュネーブに近いCERNにおいて2008年10月に稼働開始し、その周囲27km、平均深さ100mという長いトンネルに設置されました。この場所は以前、LEP(巨大電子・陽電子対)加速器を収容していましたが、今回それを交換し設置したものです。電子と陽電子を加速させ、衝突させるLEPとは違い、LHCはハドロン族から陽子を加速し、鉛のような重いイオンを発生させるものです。この歴史的な装置を使い世界の物理学者が最も小さな粒子を使って宇宙の秘密を探ることができます。

これを実現するため、ハドロンなど重いイオンを二つのビームで互いに反対方向から27kmの巨大リングを使って加速し、極めて高いエネルギーにして光速に近いスピードまで加速します。これらの粒子がほぼ衝突するような状態になると、衝撃が起こり例えばビッグバン直後の状態を再現できるようになります。この衝突で生じた粒子は特殊な検出器で解析し、100カ国以上の科学者の力を借りてデータを分析します。

この実験を可能にするためには、LHCでは9300個以上もの磁石を-271.3°C (1.9K)に冷却する必要があります。これには、1万80トンの液体窒素と130トンの液体ヘリウムを使い巨大な冷却システムを利用します。こういった巨大な装置の設置には、ここで働く人たちと実験ゾーンにおかれた装置の両方のために必要な空気を送るための換気システムを設けなければなりません。

LHCの換気システムには冷気による霧を排出し、地下でも生きられるゾーンに圧力を変えられる機能を設けます。換気システムの設計には、既存の換気システム(LEPの換気システムの改良)を改良し新装置に組み込みます。

LHCの換気および冷却システムを管理できるようにするため、CERNは、200台もの自動装置を組み込んでいるこの規模にあった監視ソフトウェアパッケージを求めました。しかもソフトの価格を抑えながら、全ての稼働コスト(TCO)も含めて安くなるようにしなければなりません。提案されたこのソリューションはCERNのネットワークやアベイラビリティの要求も含めた全ての要求にも合わなくてはなりませんでした。「CERNが採用したアーキテクチャでは、システムに接続できるクライアントの数は30近くいます。うち、8台がヘビーユーザー、20台は端末サーバーのクライアントです。これだけの数のクライアントをつなげるとなると、実質的にはリアルタイムで動かさなくてはなりません。アベイラビリティ上の制約はこのため極めて高いのです。この結果、システムは常にアクセス可能にする必要があります。このため私たちは冗長構成をとり、1台のサーバーが動かなくても替わりのサーバーが動くようにしています」とこのプロジェクトの担当企業であるアッシムフランス社のプロジェクトリーダー、ライオネル・ディアス氏は説明しています。

市場で入手できる監視のソルーションを検討した後で、これらのスペックに合うようにするため、CERNはARCインフォマティック社が開発したPcVueパッケージソフトの採用を決めました。「このPcVueソリューションが当社の性能および価格の要求に合っているという事実に加え、この製品はシステムインテグレータによく知られているという利点もあります。彼らはこれをインプリメントしてきた経験が豊富です」とCERN社エンジニアリング部門の冷却および換気グループ担当プロジェクトリーダーのマリオ・バッツ氏は胸を張ります。PcVueを使えば、標準的なフィールドネットワークによって自動化装置をつなげることができます。プロフィバスや工業用イーサーネットなど管理すべきプロセスを監視、制御するためのネットワークが使えます。この監視ソフトの仕事は、データを収集し、解析すべき情報システムへそのデータを送ることです。これらのデータはPcVueを使って直接処理されるため、具体的なシンボル(オブジェクトと呼ぶ)によってアニメーションの形(ミミック表示と呼ばれる)で表示できます。収集された情報は標準的なPcVueオブジェクト(「オン/オフ」のデジタルデータに対してはイベントオブジェクトとアラームオブジェクト、アナログデータに対してはグラフの解析)に翻訳され、後で補助的にデータを解析するのに見えるデータベース(スプレッドシートなどのツール)として保存されます。PcVueは8万もの変数(このうち6万6000件が保存されています)や、1200のミミック表示、600のオブジェクトを管理します。

PcVueは、工業プロセスを包括管理するプロジェクトの配備時間や作業時間、コストをかなり減らすという観点において大きなイノベーション製品だといえます。特に、組み立て工場や原子力発電所、化学工場、薬品工場、食品加工工場など大規模な工業プロセスに向いています。「市場で入手可能な他のツールと比べてPcVueの特長はツリー構造で記述されていることです。ここにオブジェクトのインスタンス化を容易にすることの問題、すなわち開発作業が制限されるという問題があります。例えば、可変速ドライブ型装置のいくつかの項目に対しては、各装置がそのプロセスに存在するたびに可変速ドライブのオブジェクトを作り出し、インスタンス化しなければなりません」と、アッシステムフランスのライオネル・ディアス氏は言う。

その他、PcVueソフトウェアには特に面白いツールがあります。HDS(データの履歴を管理するサーバー)アーカイブです。これは、監視システムとデータベースアーカイブあるいは端末サーバーとの間のインターフェースを管理する機能です。端末サーバーはウィンドウズ機能のおかげでPcVueのセッションをどのようなプラットフォーム上でもいくつか行うことができます。LHCのような環境では、この機能は活用しやすさや使用上のフレキシビリティという点で特に魅力的です。この実験拠点が巨大で、多くの「クライアント」、すなわちアプリケーションに接続しているユーザーがいるからです。

プロセス管理システムの配備を容易にし、作業時間を減らすという観点からみて、さらにPcVueはVmware仮想環境もサポートします。これは1台のマシン上にいくつかのOS(operating system)を別々に走らせることができるシステムで、まるで物理的に別々のマシンでOSが走っているように見せる手法です。この仮想化プロセスは、この実験拠点において監視しようとしている実際のコンピュータ数台を置き換えることができます。現実のコンピュータは十分に活用されていなかったり、1台のパソコンと比べて古くなって陳腐化してしまったりします。1台のパソコンで、多数の仮想マシンをシミュレートし、要求に従ってリソースを切り分け割り当てます。仮想監視ステーションを追加する場合でも、1台の中央のパソコン上の仮想マシンをコピー&ペーストしユーザーに端末を提供することで簡単に追加できます。レートの変更や新しい要求などプロセスを変更したい場合には、この変更に応じて中央パソコンを使ってリソースを仮想マシンに割り当てるように調整するだけです。「LHCのアプリケーションの規模を考えて、仮想インフラストラクチャを使うとコンピュータの物理的な台数を大きく減らせますので、まるでボーナスのように消費電力が下がり、使い勝手が大きく向上し、CERNのITアーキテクチャを素晴らしく統合します」とアシステムフランスのライオネル・ディアス氏は指摘します。

このことは、LHCの換気の監視にはわずか2台のコンピュータしか現実には要らないことに通じます。それも12GバイトのRAMと250Gバイトのハードディスクドライブ程度でいいのです。この監視の作業量は2台の冗長構成の物理サーバー(Windows 2003サーバー)の間で共有されます。1台はPcVueデータ収集サーバー1号とウェッブサーバー(インターネットを通してユーザーとつながる)、データベースサーバー(データのアーカイブ用)の3つの機能を保証し、もう1台はPcVueデータ収集サーバー2号と端末サーバーの機能を果たします。

オンサイトのデータ収集ステーションは、全部で8台(実験エリアごとに1台)あり、ローカルの保守オペレータが使うためのタッチスクリーンのサーバーステーションです。介入できるエリアは2kmほど離れていますので、これらのステーションは欠かすことができません。さらに、2台の中央のサーバーのうちの1台が問題なら、これらのステーションが換気装置の設置を管理することになります。

ARCインフォマティックとアシステムフランス社、CERNは共同でプロジェクトを組んだことはこれが初めてではありません。この3社はすでに2つの他のプロジェクトも一緒に取り組んできました。すなわちCERNの技術的な警報や、火災検知器、ガス検出器を監視するためのCSAM(CERN安全警報管理)と、CERNの実験設備のサービスを提供しイオン化放射線制御システムを保守するためのRAMSES(環境と安全のための放射線および監視システム)です。「ARCインフォマティックとアシステムフランスの強い点は、全てに渡ってチームで補完し合うという点です。サービスに対する責任、彼らが持つ技術サポートの強さ、そしてユーザーの要求に注力するという事実、です」とCERNのマリオ・バッツ氏は語ります。PcVueを開発し改良し続けるため、ARCインフォマティックのチームは全部で3万8000件以上のライセンスが組み込まれているおかげで、自分たちの蓄積してきた経験を信頼しています。

Captions
Caption 1 CERN-LHC-N°1.jpg
平均100mの深さに埋め込まれ、LHCトンネルは周囲27kmに渡っています

Caption 2 CERN-LHC-N°2.jpg
LHCの換気ユニット

Caption 3 CERN-LHC-N°3.jpg
実験ゾーンとその換気ユニットでのPcVueの表示

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