AIを用いた産業用モーター設計支援システムを開発
産業用モーターの設計時間短縮を実現、業務負荷軽減や製造リードタイム短縮に貢献.
「AI を用いたモーター設計支援システム」のイメージ
三菱電機株式会社(以下、三菱電機)は、東芝三菱電機産業システム株式会社(以下、TMEIC) と共同で、三菱電機の AI 技術「Maisart®(マイサート)※1」を用いて、短時間で熟練設計者によ る設計と同等性能の設計を実現する産業用モーター設計支援システムを開発しました。2023 年度 に TMEIC で導入し、設計時間短縮による業務負荷軽減や製造リードタイム短縮を実現します。
従来、工場設備のポンプやコンプレッサー、ファンなどに用いられる産業用モーターの設計は、 サイズを小さくすると電力効率が下がってしまうなど背反関係にある希望性能のバランスを見な がら設計変更を繰り返して設計仕様を調整する必要がありました。特にすべての希望性能をバラ ンス良く満たす設計仕様に調整するのは困難で、設計経験が少ない設計者であれば何度も試行錯 誤を繰り返すことが必要となり、さらに熟練設計者による確認も必要でした。
両社は今回、1設計者が入力する希望性能に近い性能を実現する過去の設計仕様とその性能を AIが提示する処理を繰り返すことで、設計者による希望性能の調整と過去の設計仕様選択をAIが 支援、2過去の設計仕様に基づき最適な設計仕様候補をAIが提示、という2段階の構成により、設 計仕様を短時間で決定する産業用モーター設計支援システムを開発しました。TMEICの設計者が 過去の設計仕様に対して本技術を適用したところ、熟練の設計者で従来1日※2(初心者で3日)か かる作業が約3時間へ短縮できることを確認しました。
本技術により、設計者は希望性能をAIへ入力し、AIが提示する過去の設計仕様の性能に基づき 希望性能を微調整して再入力するだけで、希望性能に近い過去の設計仕様が得られます。さらに 希望性能に近い過去の設計仕様に基づきAIが新たに最適な設計仕様候補を提示することで、熟練 者の設計手順の容易化・標準化が可能です。この技術を発展させることで、初心者への技能伝達 効率化や設計の性能向上にも貢献します。
本開発技術の詳細は、「(一社)電気学会 静止器/回転機合同研究会」(9月29日~30日、於:近 畿大学 東大阪キャンパスおよびWeb開催)で発表します。
開発の特長
1.双方向型の多目的設計最適化技術により、希望性能の調整と過去の設計仕様選択 を AI が支援
- 設計者は希望性能を AI に入力し、AI は過去の設計仕様の中から、希望性能に近い性能を実 現する過去の設計仕様とその性能を設計者に提示
- 設計者は提示された設計仕様と各種性能を確認し、必要に応じて、希望性能を微調整・再入 力し、AI が設計仕様を提示するという双方向型の作業を繰り返すことで、設計者の最終的な 希望性能を反映した過去の設計仕様を選択可能
- より希望性能に近い過去の設計仕様を得ることで、それをもとにした特長 2 の最適化により、 短時間で熟練設計者による設計と同等性能の設計を実現
2.高速な性能推定と効率的な最適設計仕様提示により、熟練設計者による設計と同等性 能の最適なモーター設計を短時間で実現
- これまで TMEIC が蓄積してきた設計仕様から、モーターの各種性能を高速に計算する AI 技 術を開発することで、性能の推定にかかる時間を短縮
- AI が特長 1 の技術で得た過去の設計仕様に近い設計仕様候補を作り、その中から最適な設計 仕様候補を探索して提示。従来 1 日(初心者で 3 日)かかる設計作業が 3 時間に短縮される とともに、熟練設計者による設計と同等性能の設計仕様を実現
今後の予定・将来展望
今回開発した産業用モーター設計支援システムは、2023年度にTMEICでのモーター設計業務 へ導入し、設計時間短縮による業務負荷軽減や製造リードタイム短縮に貢献します。
図 1 設計者の希望を反映した設計仕様決定方法のイメージ
特長の詳細
1.双方向型の多目的設計最適化技術により、希望性能の調整と過去の設計仕様選択 を AI が支援
これまでの多目的最適化技術では、大きさや電力効率、発熱量など背反関係を持つ各性能に 対し、全ての性能が目標値を満たす設計仕様を短時間で導出するのは困難でした。
三菱電機は今回、パラメーターの組み合わせを効率的に探索する手法であるメタヒューリス ティクスに、設計者とAIが双方向にやりとりする要素を導入し、希望性能に沿った設計仕様を 短時間で得られる双方向型の多目的設計最適化技術を開発しました。
設計者は希望性能をAIに入力し、AIは過去の設計仕様の中から希望性能に近い性能を実現 する設計仕様を設計者に提示します。その後、設計者はAIが提示した設計仕様と各種性能を確 認し、希望性能を微調整・再入力、AIが再度設計仕様を提示するという双方向型の作業を満足 するまで繰り返し、最終的な希望性能を反映した過去の設計仕様を選択します。AIと設計者の 双方向型の作業により、より希望性能に近い過去の設計仕様を得ることができ、それをもとに した特長2の最適化により、短時間で熟練設計者による設計と同等性能の設計仕様を得ること が可能となりました。
2.高速な性能推定と効率的な最適設計仕様提示により、熟練設計者による設計と同 等性能の最適なモーター設計を短時間で実現
三菱電機は、特長1の技術で得た過去の設計仕様を用いて設計仕様候補を作成し、最適な設 計仕様を探索して希望性能により近い最適な設計仕様候補を提示する技術を開発しました。こ れにより、設計者は最終的にそれらの中から案件に合った設計仕様を決定でき、短時間で希望 性能に沿った設計仕様を導出することを実現しました。
また、モーターの設計に多目的最適化技術を適用する場合、膨大なモーターの設計仕様に対 して性能算出のコストがかかるという課題がありました。TMEICは今回、これまで蓄積して きた過去の設計仕様とその性能をAIが学習し、設計仕様から高速にモーターの各種性能を推定 する技術を開発しました。
さらに、TMEIC が保有するモーターの知見と三菱電機が培ってきた AI 技術の知識を組み 合わせ、モーターの各種性能の特性や AI の探索方法を考慮した評価指標を用いることで、希 望性能に沿った設計仕様を得ることが可能になりました。
これらにより、従来1日(初心者で3日)かかる設計の調整作業を3時間に短縮でき、かつ初 心者でも熟練設計者による設計と同等性能の設計が得られることを確認しました。設計時間短 縮による業務負荷軽減や製造リードタイム短縮が期待されます。
例えば図1の場合、まず特長1の技術で、設計者は大きさ、電力効率、発熱量それぞれに対し、 希望性能を入力します。設計者が大きさと電力効率を重視した設計を希望しているので、その希 望に沿った設計仕様をAIが提示します。1回目に提示された過去の設計仕様に対して、設計者がC 程度で、もう少し電力効率を上げた設計を希望したことで、その希望に沿った設計仕様をAIが再 度提示します。調整を繰り返すことで、設計者の最終的な希望性能に基づく過去の設計仕様であ るDを得られます。
次に特長の2の技術において、設計者はAIに最適化要求を行います。その後、AIがDをもとに設 計仕様候補を作成して最適化を行い、最適な設計仕様候補であるD候補1~3を提示します。設計 者はD候補1~3を見て設計仕様を決定します。
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