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02
'20
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GE News
アディティブ製造技術と人工知能が膝関節置換術に変革をもたらす
イタリアの医療用インプラントメーカーであるリジョイント(REJOINT)社は、電子ビーム溶融(EBM)と、IoT接続されたセンサー付きウェアラブルデバイスを使った術中・術後のデータ収集のコンピュータ解析を組み合わせることで、マス・カスタマイゼーションおよび治療の個別化を導入しています。
患者特有の関節形成術
人工膝関節(インプラント)の市場は現在、全世界で年間約500万件と推定されています。先進国市場では、2011年はすでに手術件数が人口10万人当たり150件となっており、オーストリアやスイスなど一部の市場のピーク時には250件に達しました。年間の増加率が最も高かった(7%)のは、64歳以下の患者でした。
最近までの膝関節形成術の市場は、標準的な人工関節システムのみで構成され、利用可能なサイズの範囲が限られていました。現在臨床で日常的に実施されながら、未だ成功率が安定しないなかで、正確かつ精密なサイズ合わせと位置決めはこの分野の取り組みを成功させるための重要な要素の一つです。
膝関節は、300キログラム以上に達する点荷重に耐えなければなりません。患者の骨要素と人工関節(インプラント)の間に、わずかでも寸法変化があると、痛みや炎症を引き起こす可能性があります。患者にとってサイズの過不足は、人工関節の存在を常に意識することを意味し、筋肉や靭帯の損傷にもつながります。
インプラント手術後の患者からのフィードバックには、このような問題が反映され、5人に1人、時には4人に1人の患者が不満を感じていることが示されています。不満は多くの場合、埋め込まれた人工関節のサイズ合わせが最適でないことに大きく関係しています。
患者の観点から、適応症に関して解決策を選択する際の基準に大きな変化が見られました。高齢の患者の中には、全面的に医師に頼って選択する人もいるかもしれませんが、若い患者はオンラインで解決策や治療法についての情報を得て、自ら収集した情報に基づいて外科医を選ぶこともあります。
アディティブ製造技術とデータに基づいたカスタマイズ
イタリアのボローニャに拠点を置くリジョイント社は、整形外科分野で長年の経験を持つチームによって2015年に設立され、最近になって膝関節形成術の市場に参入しました。
この革新的な企業は、カスタマイズされた医療ソリューションの提供を目指しています。その成長戦略には、アディティブ・マニュファクチャリング(アディティブ製造、AM)と人工知能の両方が不可欠です。
リジョイント社のCEOであるジャン・グイード・リーバ氏は次のように述べています。
「アディティブ製造については、カスタムメイドのコバルトクロム合金製人工関節に最適なソリューションは当初未定であり、DMLM(直接金属レーザー溶融)とEBM(電子ビーム溶融)を評価しているところでした。実際、どちらの方法も優れた解像度と品質を実現できますが、最終的にGE Additive Arcam EBM Q10plusシステムを採用しました。GEが提供してくれた知識と事業化支援、そしてイタリアの現地チームの専門的な経験が、私たちの決断を後押ししてくれました」
「現在のところ、アディティブ製造されたコバルトクロム合金製の人工膝関節は認可を受けて市場に導入されていますが、これを実現するソリューションを提供しているのは当社だけです」と彼は付け加えています。
リジョイント社は人工関節をアディティブ製造するために、患者に施すCTスキャンを3Dモデルに変換することから始めます。そして、高度な人工知能(AI)アルゴリズムを使用して画像を解析し、それぞれの症例に最適なサイズを特定します。
AIは、数千もの人工関節の寸法に対して患者特有の解剖学的構造を比較するために使用され、インプラントの特定領域にも同様に多くの寸法変数があります。そして、人工関節部品の位置決めと手術のシミュレーションのための最適な構成を外科医に提案します。この解析は、人工関節の製造と治療計画のための患者専用ツールの基盤となり、手術はコンピュータを利用した外科器具のサポートを受けて行われます。
「このようなデータを得たことで、手術中に記録される情報にリンクできることを実感しました。また、ウェアラブルデバイス(センサー付きヘッドバンドやソックスなど)を使用して、患者がどのように四肢に負荷をかけたり、膝を曲げたりしたかについて、術前と術後の両方の測定値を術後の評価アンケートが完了するまで収集することで、このデータはさらに改善されます」とリーバ氏は続けます。
リジョイント社の高付加価値製品の一部となっているこの革新的なアプローチは、双方向的な術前計画からリハビリテーション段階までのプロセス全体を追跡する一連の相関関係を特定することができます。
「2022年までに、何千もの症例の完全なデータが利用可能になります。これにより、完全性という点で、この分野では他に類を見ないほどの豊富な実用例の情報が提供できます。何百万もの製品が販売されているにもかかわらず、販売後の状況に関する情報はほとんど、あるいは全くありません」とリーバ氏は続けます。
最初のインプラント手術を行ったミラノのヒューマニタス研究病院の膝関節再建センター長であるマウリリオ・マルカッチ教授によると、この技術を最初に実施したことで、長年の経験の中で前例のないほど高い患者満足度が得られたといいます。
今後の展開
同社は現在、米国食品医薬品局(FDA)にてFDA 510(k)認証を申請中であり、2021年上半期の取得を目指しています。認可を得ることで、整形外科機器の世界市場の62%、人工膝関節(インプラント)の世界市場価値の70%以上を占める米国市場への参入が可能になります。
リジョイント社はGEアディティブと協力し、リモート生産管理ステーションの開発などを通じて、サイクルタイムの短縮とパラメータの最適化に焦点を当てることで粉体ベースの製造コスト削減に努めています。リジョイント社はまた、若年者や急性ではない患者向けに、低侵襲設計と手術支援ロボット技術を採用した単一区画人工関節形成システムを開発しています。
「重要な要素は、企業と患者間の密接かつ直接的な関係です。これにより、術後の満足度がさらに向上します。私たちは、人工膝関節(インプラント)分野における改革の幕開けを迎えています。リジョイント社のアディティブ技術への取り組みにより、さらに個別化された手順とより高いレベルの長期的な患者満足が可能になります」とリーバ氏は付け加えています。
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