リアルタイム制御が街をよりサステナブルにする3つの方法
EVのチャージング・ステーションからソーラー・エナジーソリューションまで、リアルタイム制御のような先端技術を通じて、街はさらに効率的になっています。
筆者は TI でC2000 マイコン担当の マネージャとして、リアルタイム制御の必要性の高まりとともに、より少ないエネルギーでより多くの成果が望まれている、という要望を目にしてきました。
上海で昨年、長年議論されてきた理論の実験が開始されました:「電気自動車 (EV) を、都市の電力網のフレキシブルなエネルギー源として活用することは可能でしょうか?」
EV (電気自動車) のドライバーは、いつ充電を行うべきか、またほぼ満充電の状況でいつ EV を再生可能エネルギーとして活用するべきか、という合図を、各公益事業企業から受け取りました。この方法で、本来なら無駄になっていたはずのリソースを活用することができます。1 EV のバッテリは、 EV を駆動するためのエネルギー・ストレージであることに加え、電力網 (グリッド) でエネルギー需要が供給を上回ったときに余剰電力を電力網に貸し出すことが可能になりました。
この革新的なパイロット (実験) プログラムの結果、日常生活で使用される家庭用充電器、公共向け充電器、またはバッテリ交換ステーションなどのさまざまな種類の充電器が、都市の電力網をサポートする上で互いに異なる役割を果たせる、という事実が明らかになりました。現在、中国の New Infrastructure plan (新型社会資本計画) の一環として、新エネルギー自動車充電ステーションの拡大は同戦略の不可欠な一部となっており、近代化と環境に関する長期的な目標を達成することを目指しています。
世界各地にある他の複数の都市も、効率の改善と排出物の低減へ向けて機敏に動いています。エネルギー効率に関する課題を解決すると同時に、電力密度を高めるテクノロジーは、この目標を具体化するのに役立つ中心的な位置付けです。
システムのリアルタイム制御能力を重視すること –ジャスト・イン・タイム (適時) 処理は1 兆分の 1 秒 (1ps) のうちにデータを収集し、閉ループ・システムを更新–は、より効率的でより処理能力の高いシステムを通じて、排出物の低減に大きな改善をもたらします。リアルタイム制御は、エネルギー管理の革新に関する次の波を解き放つ鍵になります。
- EV の航続距離の延長と性能の強化
- EV 充電インフラのアップグレードと拡大
- ソーラー・エネルギー・ソリューションを通じたエネルギー・ストレージの革新
リアルタイム制御が重要な理由
リアルタイム制御は、新しいテクノロジーではありませんが、TI は約 20 年前から専用コントローラを提供し、デジタル信号処理の分野で革新を成し遂げてきました。スマートな自律型システムでマイコンが広く採用されるようになった結果、世界全体のマイコン市場は近年大きく成長してきました。2 リアルタイム制御システムは閉ループ制御システムであり、データの収集、それらのデータの処理、システムの更新を行うために厳格な時間枠が課されています。電力変換と、ファクトリ (工場) 内でのロボットの移動のような先進的なモーター制御アプリケーションの両方で、この処理が重要な役割を果たします。
設計エンジニアは、モーターの駆動または電力の変換を実施する製品の開発にあたって、効率、精度、サイズに関する要望の増大に直面しています。リアルタイム制御の能力最大化と最適化を実現するには、待ち時間の最小化、電力効率の向上、コスト効率の改善を目的として専用設計を実施したシステムの内部で、組込みデバイスを使用する必要があります。これまでは決してリアルタイム制御を意図してこなかったデバイスをリアルタイム用途で使用することを試みると、エンジニアは意図せずに、制御アプリケーションを意図した単一のマイコンを使用する場合より設計期間が長期化する事態に遭遇する可能性があります。
都市でエネルギーを意識した特定の活動、たとえば EV 台数の増加やソーラー・エネルギーの強化などリアルタイム制御テクノロジーを適用する場合、エネルギー・ストレージとエネルギー管理の分野で今後非常に大きな影響力が発生するのを目の当たりにする可能性があります。
EV の航続距離の延長と性能の強化
EV 内にある事実上すべてのサブシステムは、何らかの形式のリアルタイム制御に依存しています。多数の魅力的な革新を通じて、自動車の効率は向上し、運転する楽しみも強くなっています。同時に、EV の普及にあたって、EV 航続距離や充電時間に関する不安、およびその他の障壁への対処も進んでいます。
電力用途の新しいテクノロジーである GaN (窒化ガリウム)などは、電力密度の向上、効率の改善、航続距離の延長、信頼性の向上を通じてこれらの課題に対処する潜在能力を秘めています。ただし、GaN の潜在能力を引き出すには、電力損失とノイズを最小化できるように、高いスイッチング周波数への対応能力と構成可能な制御能力を組み合わせたリアルタイム・コントローラが必須です。GaN が電力効率と電力密度に関する最高水準を達成するために、マイコンが役立ちます。
リアルタイム制御分野で、処理能力の向上やセンシングとアクチュエータ駆動の性能向上につながるいっそうの進歩が具体化した場合、精度と効率が向上すると同時に、システム統合の高度化を通じて自動車の手頃な価格設定にも役立ちます。
EV 充電インフラのアップグレードと拡大
EV の背後にあるさまざまな流れと、よりクリーンなエネルギーで自動車が走行するという方向転換を目指した自動車メーカー各社の投資を背景に、都市は EV の台数増加に対応するためにより良好な充電インフラへの投資を必要とする可能性があります。
これらの充電ステーションの内部にあるテクノロジーは、コスト効率が優れていると同時に、充電時間を短縮することも求められます。リアルタイム制御は、高速充電環境の実現と電力損失の最小化にあたって不可欠であると同時に、電力網にもたらす負担を低減してこれらすべてを達成することが求められます。EV 充電システムは電力網の AC 電力を、EV のバッテリ充電に使用する DC 電力に変換するからです。この効率は、ドライバーがバッテリをより迅速に充電し、できるだけ早く走行を再開するのにも役立ちます。
ソーラー・エネルギー・ソリューションを通じたエネルギー・ストレージの革新
上海での実験は、都市が再生可能エネルギーをフレキシブルな電力源に作り変えようとする方法の 1 つにすぎません。
ソーラー・インバータがバッテリのストレージを活用し、太陽が照っていない時間帯にもエネルギーにアクセスできるようにする、という革新はまだ開発途上です。これらのシステムは、リアルタイム制御に関するいくつかの重要な土台を組み合わせたものです。ソーラー・パネルから電力網への転送、電力網から、エネルギー・ストレージ場所であるバッテリへの転送、その後、バッテリから電力網への再転送です。電力の変換を必要とする 3 つの場所があり、設計時に十分な注意を払わないと電力が失われる可能性があります。リアルタイム制御を実施すると、出力を最大化すると同時に、双方向電力変換の電力損失を最小化するのに必要な精度を達成し、システム内での DC 電力と AC 電力の双方向の効率的な流れを実現しやすくなります。
再生可能エネルギーはリアルタイム制御を必要とします。炭素排出物の低減が切迫している現状で、更なるエネルギー効率向上と世界のグリーン対応を進めるために、リアルタイム制御は中心的な位置にあります。
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