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CISSOID

モジュール式ハイパワーSiC静止摩擦インバータによる自動車以外のモビリティ電動化の加速

ピエール・ドゥラット CISSOID社CTO

貨物輸送、産業用オフロード車両、海洋用途、航空は、内燃機関による温室効果ガス排出量全体の55%以上を占めています[1]。これらのパワートレインを電動化すれば、気候変動対策に大きな違いを生む可能性があります。しかし、世界中で稼働している大量のパワートレインには、多種多様なタイプやプラットフォームがあります。

エンジニアが新しい電気ドライブを短期間で開発するには、できる限りの支援を得る必要があります。その違いは、単に寸法、形状、重量の制約といった物理的なものに止まりません。機能的、電気的な安全性要件や環境条件は、用途や地理的市場によって大きく異なります。一方、あらゆるメーカーの間で競争が起きているため、短時間での製品化が求められています。

パフォーマンスと信頼性のためには、カーボランダム(SiC)こそが最適なパワー半導体技術です。乗用車市場では範囲不安などの問題によってシリコンからエネルギー効率に優れたSiCへの移行が進んでいます。一方、バスなどの車両は決まったルートを運行し、オフロード車両は比較的短い距離を走行します。これらの用途においては、SiCの高電圧能力によって急速充電が可能なためターンアラウンドタイムが短縮し、高温下で動作可能なため信頼性を最大限に高めることができます。さらに、モジュールで処理を分配するために必要なSiCデバイスの数が少なく、SiC MOSFETはシリコンMOSFETと比べ絶縁破壊電圧との関連で小型化できます。したがって、モジュールサイズの節減も可能です。

しかし、SiCパワーデバイスはシリコンMOSFETやIGBTをそのまま差し替えればよいというものではありません。高周波で高速かつなめらかなスイッチング時の遷移を実現するようゲートの適正な制御を計画するのは、簡単なことではありません。さらに、ハードウェアコンポーネント、特にインバータとインテリジェントパワーモジュールの統合、モーター制御ソフトウェアの設定とキャリブレーションなどの課題もあります。

開発プロセスの加速
堅牢で信頼性の高いSiCパワーモジュール(図1)の開発上の課題を克服し、製品化に要する時間を加速するため、CISSOIDはSiC静止摩擦インバータのプラットフォームと参照設計を開発しました。ドライブメーカーは、これを利用して最大850Vのバッテリー電圧で動作可能なシステムを構築できます。ハードウェアはモジュール式でスケーラブルなため、さまざまな定格の設計を開発できます。


モジュール式ハイパワーSiC静止摩擦インバータによる自動車以外のモビリティ電動化の加速
図1.CISSOIDの高電圧SiCインバータ参照設計

この参照設計は、調整が難しく時間がかかるとされるインバータの問題を解決するものです。中核コンポーネントには3相1200Vインテリジェントパワーモジュール(IPM)が含まれます。これは既にSiC用に最適化されたゲートドライバと統合され、耐熱性に優れた設計となっています(図2)。ドライバは10A以上の最大ゲート電流を実現し、周囲温度125°Cまで動作可能です。


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図2.インテリジェントパワーモジュール(IPM)はSiCパワーステージおよびピンフィン式冷却と上部に取り付けられたゲートドライバで構成される[2]

SiCゲートドライバは既にパワーモジュールと統合されているため、ユーザーは、高いスイッチング速度と低損失について検証済みで最適化され、高dl/dtとdV/dtの影響に対するイミュニティがあり、パワーステージに対する堅牢な保護を備えたソリューションをベースとしてプロジェクトを開始できます。その結果、モジュールのパフォーマンスを微調整し、適切な温度管理を実現するための反復作業の回数を大幅に軽減できます。このほか参照設計のハードウェアには、DCおよび位相電流センサ、EMIフィルタリング、統合液体冷却および高密度DCリンクコンデンサが含まれます。DCリンクコンデンサはインバータプラットフォーム専用に開発されたもので、広範囲の電圧・電流オプションに対応します。

ソフトウェアの制御とキャリブレーション
参照設計を完成させる要素として、アプリケーション専用のプロセッサとソフトウェアを搭載したe-モーター制御ボードもあります。プロセッサとソフトウェアはいずれもISO 26262認証取得済みで、機能安全についてASILレベルDに対応しています。このモーター制御ソフトウェアは機能安全認証を損なうことなく幅広い調整が可能で、エンドユースケースで求められるモーターの挙動を柔軟に最適化できます。ユーザーは、これをベースとして独自のカスタムアプリケーションソフトウェアを実行できます。

制御ボードはシリコンモビリティ社のOLEA® T222フィールドプログラマブル制御ユニット(FPCU)を中心として設計されています。参照設計ではこのアプローチにより、従来のプロセッサにおけるソフトウェアベースの柔軟性とハードウェアアクセラレーションを組み合わせ、期待される最高のモーター速度でのリアルタイムパフォーマンスが実現可能となっています。また、参照設計では制御ボードを組み込むことにより、ユーザーが制御ボードとインテリジェントパワーモジュールを組み合わせる際に、通常の機械的、電気的統合に伴う課題を回避できるようにしています。

OLEA® APP INVERTERは、柔軟性に優れ完全にカスタマイズ可能な制御ソフトウェアで(図3)、設定とキャリブレーションのパラメータがオフラインでもリアルタイムでも変更可能なため、どのような電動パワートレイン構成や出力レンジにもマッチします。このソフトウェアには、グラフィックインターフェイスを含むデバッグおよびキャリブレーション用フレームワークも含まれています。


モジュール式ハイパワーSiC静止摩擦インバータによる自動車以外のモビリティ電動化の加速

 図3.OLEA® APP INVERTER制御ソフトウェアはモーターの動作を調節し最適化する複数の機能を備えている

開発者は、OLEA® COMPOSERを使ってモーター制御ソフトウェアの最適化に要する時間を短縮できます(これを実現するための4ステップのプロセスについては、補足記事を参照してください)。

SiCインバータのパフォーマンス
パラメータを設定したら、モーターをテストしてインバータとモーターの組み合わせの効率をマッピングできます。図4aと4bは、SiCベースのインバータとシリコンIGBTを同様の現実的条件の下でテストし、パフォーマンスを比較したものです。


モジュール式ハイパワーSiC静止摩擦インバータによる自動車以外のモビリティ電動化の加速

図4a. 最大260kW @ 13500rpmのSiCインバータのパフォーマンス。すべての速度およびトルク領域において効率を示している


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図4b. 最大120kW @ 11500rpmのシリコンベースのインバータは、比較条件下でトルク能力が損なわれている(交点を参照)

これらのパフォーマンスプロットは、SiCベースドライブの効率向上により、いかに優れたユーザー体験が実現するかを示しています。速度と負荷に対する要求が高まれば、IGBTベースドライブで稼動するモーターのトルクは効率が低いため大幅に低下します。デバイスのエネルギー損失に関連する自己発熱は、冷却を大幅に増強しなければ消散しません。一方、効率の高いSiCベースドライブは、はるかに広い速度および負荷領域にわたり最大限に近いトルクを実現できます。

ドライブの設定とキャリブレーション
OLEA® COMPOSERツールスイートは、ユーザーが顧客の仕様に応じてモーターを回転させるために有効です。電圧、定格、速度、トルクなどのパラメータのキャリブレーションを行い、最適な動作領域を達成できるよう支援します。これが完了すると、インバータとモーターの効率をマッピングできます。
設定とキャリブレーションは次の4ステップで完了します。

ステップ1:ソフトウェアパラメータの設定
• e-モーターパラメータによるOLEA® APP INVERTERソフトウェアの設定

ステップ2:インバータハードウェアの設定
• レゾルバや温度センサなどのコンポーネントを含むe-モーターの設定。EVの電子制御ユニット(ECU)とベンチ(CAN、安全など)インターフェイス、パワーおよび冷却インターフェイスの接続
• テストベンチによるインバータ安全インターフェイスのチェック

ステップ3:モーター制御システムのキャリブレーション
• オープンループモード:OLEA® T222 FPCUによる電流および電圧センサの信号調整チェーンのキャリブレーション
• 部分オープンループモード:レゾルバまたは誘導型センサを使ったポジションセンサのオフセットキャリブレーション
• 電流クローズドループモード:フィールド指向制御(FOC)用の内部PIコントローラのID、IQベクトルの調整
• トルク制御モード:精度と動的応答性を高めるためのトルク制御ループの微調整
• 速度クローズドループモード:スピードレギュレータのキャリブレーション

ステップ4:高度なシステム最適化
• スイッチング周波数のスケーリング:速度および位相電流によるスイッチング周波数の調整
• デッドタイム補償:位相電流の高調波を最小限に抑えるためのデッドタイム補償アルゴリズムの調整
• 弱め磁束:最大トルク/電圧(MTPV)領域における効率的な動作のためのID/IQセットポイント最適化
• SVPWM/DPWM:高速時の効率化のための空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)と不連続パルス幅変調の境界定義(DPWM)
このアプローチを使うと、参照設計の調整により、700Vのバスを最大4000rpmで運行した場合で以下のように99%以上の効率を達成できます。


モジュール式ハイパワーSiC静止摩擦インバータによる自動車以外のモビリティ電動化の加速
 結論
バス、トラック、農業用車両セクターは、電動化のためにも、環境への排出量による負荷を軽減するためにも優れた機会となります。カーボランダム(SiC)パワーテクノロジーは、信頼性と車両のデューティサイクルの両方を最大化するとともに、シリコンIGBTやMOSFETと比較して優れた効率を実現することができます。SiCを使った設計の複雑さや製品化までの時間を短縮する必要性から、設計者が多種多様な車両カテゴリーやタイプの目標を達成できるような柔軟性に優れた開発プラットフォームが求められています。SiCを使った設計における主要な課題に対する解決策を提供するとともに、さまざまな定格やバッテリー電圧に対応し小型車両から大型車両まで扱える柔軟性とスケーラビリティを実現する完全な参照設計は、設計上のリスクを実質的に最小限に抑え、製品化に要する時間を加速することができます。

参考資料
[1] 出典: NESTE : Towards sustainable mobility / April 2023: https://journeytozerostories.neste.com/transportation/towards-sustainable-mobility#885e75ed
[2] CISSOID SiC Intelligent Power Modules: https://www.cissoid.com/sic-power-modules/


 

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