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'21
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Texas Instruments News
各自動車メーカーは 電気自動車(EV)のパワートレイン統合を推進
パワートレイン・システムを小型の筐体に統合すると、より手頃で、より効率的な電気自動車 (EV) の実現につながります。
EV のパワートレイン・アーキテクチャを向上させることができると、システム設計コストを最大で半分に削減すると同時に、電力密度の最大化、効率の改善、信頼性の向上、より多くの人にとって手頃な EV の価格設定を実現できるようになります。
現在の電気自動車のコストは、燃焼型エンジンのみを搭載した従来の自動車の製造に比べて、平均 12,000 ドル高くなっています。1 自動車メーカー各社が世界各地の排出物規制への適合を重視している現状で、消費者がハイブリッド車または完全電動車に乗り換えやすくなるように、各社は手頃な価格設定という目標に関し、現状とのギャップを埋める必要にも迫られています。
自動車の設計エンジニアが効率や信頼性向上、また航続距離の延長に懸命に取り組んでいる状況で、EV の非常に高価な部品であるパワートレイン・システムのコスト削減も同時に求められるのは、大きな課題です。EV のパワートレイン統合が、1 つの鍵になる可能性もあります。
TI のホワイトペーパーをご覧ください。
”高性能な統合型パワートレイン・ソリューション:EV に適用するための要件”
ハイブリッド車と EV のパワートレインは従来、自動車の推進機構として、バッテリ、DC/DC コンバータ、オンボード・チャージャ、トラクション・インバータをそれぞれ単独の筐体に搭載し、それらを組み合わせるという形式を採用してきました。アナログと組込みプロセッシングの各テクノロジー分野での進歩により、設計者は単一のドメイン・コントローラと単一の電力段を使用してこれらのシステムを組み合わせることができます。その場合、設計者は効率と信頼性を向上させると同時に、コストの削減や、機能安全に関する各種基準への適合を実現しやすくなります。
「この考え方は、システムを最大限に活用するために、技術面と安全性に関する重要な要件を満たしながら、より多くの人が使用できるように、より手頃な価格設定を実現することを意味します」と、TI のワールドワイド車載パワートレイン・システム・エンジニアリング・チームを指揮する Karl-Heinz Steinmetz は言います。
中国の深圳 (深セン) に本拠地を置く EV 部品メーカーである VMAX は、パワートレインの統合による利点を直接的に体感しています。
「より効率的で、より信頼性が高く、中国全体で消費者が入手しやすい手頃な EV を設計する鍵になるのは、パワートレインの統合です」と、VMAX の副社長である Han Yongjie 氏は語っています。「オンボード・チャージャ、DC/DC コンバータ、トラクション・インバータの各システムに関して、当社のお客様が求める水準の統合を達成するうえで、テキサス・インスツルメンツのテクノロジーと専門知識が役に立ちます」
効率改善と電力密度の向上を通じて航続距離を延長
複数のパワートレイン・システムを小型で単一の機械的筐体に搭載すると、設計や組み立てがよりシンプルになることに加えて、他の利点も達成できます。統合を実現すると、パッケージングに要していた大量の部材の必要性が低下するほか、冗長なハードウェアが不要になります。特に、システムの重量と体積を大幅に削減できます。
「重量が 1kg 軽くなるごとに、効率の式は大きく改善します」と、Karl-Heinz は言います。「自動車の重量軽減に成功した場合、全体の効率や、1 回の充電による航続距離を改善できます」
電力密度の向上を通じて効率の向上に貢献する各種革新も鍵になります。車載対応 GaN (窒化ガリウム) テクノロジーなど、各種テクノロジーを採用した EV は、より高い効率での動作と熱エネルギーの保持を通じて、航続距離の延長に貢献します。この変化は、冷却に要する部品点数とコストの削減につながります。
「GaN のような素材を採用した各種ワイド・バンドギャップ・スイッチを、最適化された高速ゲート・ドライバとともに使用すると、画期的な手段になる可能性があります。それによって磁気部品を最大 60% 小型化でき、全体の重量とコストの削減につながります」と、TI の GaN マーケティング・チームに属する Ramanan Natarajan は言います。
統合型のパワートレイン・アーキテクチャを具体化するには、電力変換に関する高度な要求に対応できる各種リアルタイム・マイコン (MCU) も必須です。TI の C2000 マイコンには非常に短い待ち時間という利点(英語)があり、1 ~ 2MHz というかなり高速なスイッチング周波数を実現できます。その結果、インダクタやコンデンサなどの外部部品を小型化できます。
「リアルタイム・センシング能力、および制御ループ内でのスイッチング周波数の高速化という利点を通じて、TI はトラクション・モーターを最大 20K RPM に引き上げることができます」と、TI の C2000 マイコン車載マネージャである Na Kong は言います。「その結果、車載分野のエンジニアは従来の 1/3 を下回る小型モーターを製作し、10K RPM 前後にとどまっていた従来の設計を上回る性能を実現することができます」
単一のリアルタイム・マイコンを搭載した統合型のパワートレイン・アーキテクチャを使用する場合、分散システム内にある複数のマイコンのジョブを効率よく取り扱う能力がシステム側で必要になります。高度統合型の設計を使用する場合、リアルタイム・マイコンはデジタル電源制御とモーター制御の両方を実施することで、効率を改善すると同時に、貴重なスペースも節減できます。
「自動車メーカー各社が統合型アーキテクチャに切り替える場合、システム内でどのリソースやチップを統合するのか、という点が重要な決定事項になります」と、Karl-Heinz は言います。
信頼性の向上と機能安全規格への適合
EV では、従来型の自動車と同様、システムの信頼性が非常に重要です。統合型のパワートレイン・アーキテクチャは、破損する可能性のある部品の点数が少ないという単純な事実を通じて、より信頼性が高くなっています。統合型システム固有の利点に加えて、EV の高電圧バッテリ環境の信頼性を確保するには、堅牢性の高い保護機能とピーク放熱特性も必須になります。
絶縁型テクノロジーは、過酷な車載環境向けに設計されたテスト済みの絶縁型ゲート・ドライバや絶縁型変調器を通じて、これらの課題への取り組みを支援します。内蔵の各種診断機能も、安全性に関する重要な要素の一部です。ASIL D は自動車の機能安全に関する最高水準であり、EV メーカー各社にとって重要な課題ですが、パワートレイン・システムが ASIL D に適合するように、診断機能を活用することができます。
「TI は機能安全の能力が設計全体にとって重要であることを理解しており、これらの検討事項を非常に真摯に取り扱っています。TI は各種リファレンス・デザインを通じて安全性に注意を払っていることを強調しているほか、これらのリファレンス・デザインは TÜV SÜDによる独立評価をすでに受けています。TI のお客様はこれらのデザインを活用して、開発中システムの設計をカスタマイズするとともに、優れたコスト管理を実現することができます」と、Karl-Heinz は言います。
パワートレインの統合を通じて EV 市場の成長加速を支援
EV 市場は急激に成長しています。現在の車両数は 560 万台ですが、2025 年には世界中の自動車市場で全体の 30% を占める割合に増加することが予測されています。2 パワートレインの統合は、この成長を加速するうえで重要な役割を演じます。統合型のパワートレイン・システムは、電力密度の 40% ~ 50% の上昇、また体積と重量の大幅な低減、信頼性の向上をすでに実証してきました。
「この点は、EV の性能や 1 回の充電あたりの航続距離に大きな影響を及ぼします。最終的にこの種の自動車がいっそう手頃な価格設定になるでしょう」と、Karl-Heinz は言います。
より良い世界を築き上げるための TI の熱意
統合型パワートレイン・システムを設計するお客様を支援することは、TI のイノベーターたちが、半導体を通じて電子機器をより身近なものにすることで世界をより良くしようという、TI の熱意を体現していることを示す 1 つの例です。各世代のイノベーションを通じて、小型化、効率化、信頼性の向上、低コスト化を実現するテクノロジーを構築してきました。その結果、新しい市場を開拓し、半導体はあらゆる分野のエレクトロニクス製品に採用されるようになっています。TI はこれらのイノベーションを、エンジニアリングの進歩と捉えています。
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